’17
Jul
30
天女の傘
雨が止むのをガレージでラプと待った。
この雨は直ぐに止む…野生の勘がそう思わせたからである。
案の定しばらくして小雨になり、やがて雨は上がった。
我々はアスファルトに所々出来た水溜りを楽しみながら朝の散歩を再開した。
時々行く公園にコースを決め、20分ほど歩き、到着と同時にまた雷が鳴り始め、
ポツポツと降り出した雨は思うよりも早く本降りになった。
この雨も直ぐに止む…野生の勘がそう思わせたので、公園内にある藤棚に身を寄せた。
天候のせいで少し暗い藤棚の下で誰も居ない公園の景色を眺めていた。
しかし5分経っても10分経っても雨は止まず、逆に少し激しさを増した。
野生ではない方の勘を働かせるべきだったと少しばかり後悔した。
屋根代わりの藤棚を伝って落ちる雫が我々を徐々に濡らし始め、
この際びしょ濡れを覚悟でもう帰ろうかと思い始めた時、
雷鳴と共に突如 雅楽の様な音が鳴り響き、辺りがぱぁっと明るくなった。
気がつくとそこには傘をさした天女(てんにょ)が居た。
天女は微笑を浮かべながら「そなたは傘をお持ちでないのかえ。」と問いかけてこられた。
「はい。あいにく…」と答えると、
「少しおまちなさい。」と言いながら藤棚の端へすすすーっと移動された。
すると天女は左手にもうひとつ傘を持って戻って来られ「これをおつかいなさい。」
と桃色の傘を優しく差し出された。
受け取りながらお礼を言う我々に再び微笑みを浮かべ、
それを合図に傘をさし直し、すっとまたどこかへ行かれた。
お辞儀をして傘を開くと年代物の傘とあって少し破れてはいたが
お陰様で自分はほぼ濡れずに帰って来れた。
ラプはむしろ夏の雨に濡れるのを愉しんでる様子で、
足許の水をはねさせながら喜々と歩いていた。
ガレージに着くとほぼ同時に雨が上がった。
明日公園の藤棚に傘を返しに行こう。
またあの天女に会えるかしら。
#ボーダーコリー #雨散歩 #傘 #天女